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キム・ハノ詩集 18 在日の詩
「ミスター・ジェンキンス」
語彙解説

北の幾つか大学で教べんとりしことありぬ
大同江ホテルに宿り
疲れ取らんとバーへ行く
どういう訳か唯一人
外国人が飲んでいる
アメリカ英語で呂律がまわらぬ
はこう語る
「ヴェトナム脱走兵、
よくこの店にやってくる
アメリカ人はピョンヤンには
彼しかどうもいない筈
映画でも見たことがある
どこかの先生らしいけど…」

あいさつ交しビールを飲む
時々彼は天井みつめ
溜息ついて、何か一人ぶつぶつ言う
私は彼と三度会う
一回目はよく喋ったが
二度、三度目はあいさつのみ

虚空(こくう)の目付き尋常でない
酒にまみれ中毒深し
恐らく遠きアメリカの
故郷のことを想うのか…

年月変わり「拉致」のこと
日本列島騒然なり
紙面・テレビ・ラジオから
鳴り物入りの総動員
在日われら標的となる
ビジネス・学校・個人のみか
隣り近所の嫌がらせ
歯を食いしばり我慢する
朝・日親善われらは不滅!

それにしても何かがかかる
「拉致」は「拉致」でも不思議なり
「拉致」は捕えて虐待する。」
ジェンキンスの家族らは
上品な部屋与えられ
生活保障、外出自由
一級ホテルで私と飲む

二人の娘も無事育ち
外国語トップを誇る
ピョンヤン外大に通うとは、
百人に一人という
私は五年前、二ヶ月近く、
その大学へ招へいされた
日本で見られぬ熱中した
学習態度身にしみる
昼食時には校庭が
サッカー、ナワトビ、元気なり
英語で授業、英語で答え
英語で討論盛んなり
他の家族の子らも又
同じ待遇受けた筈

(中略)

朝鮮半島は日進月歩の勢いで
統一へ、統一へと疑いなく
川の流れは海へ向く
一ひらの葉が落ちたとて
「共和国」という大木は
微動すらしていない
朝・日国交正常化
その日必ず来たらんと!

2004.9.18

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大同江 ピョンヤン市内を流れる川。[だいどうこう/テドンガン)そのほとりに大同江ホテルがある。
映画 ジェンキンスさんは、朝鮮の長編シリーズ映画、「名前無き英雄たち」にアメリカ人役で出演している。
ピョンヤン外大 ピョンヤン外国語大学。ハノ先生も招聘教授として教鞭をとったことがある。ジェンキンスさんの娘さんはまだ入学していなかったという。