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キム・ハノ詩集 16 在日の詩
「オックスフォードの愛弟子よ」
語彙解説

リ・チョルホという学生
長崎県から東京へ
のそっと入学してきたが
何考えてるか分からない
しきりに悩んでいるようで
いまいちはっきりしない子だ
日本の大学入ろうと迷っていたのかも知れぬ
ずるずる彼は二年生
彼のクラスの英会話
はじめて担当してみると
だんだん興味わいてきた
夜は寄宿舎訪れて
いろいろ話するうちに
なんとなく気に入った
ああ、この子は良い子だと
どこかもさっとしているが
そこは教師の腕一つ
英会話が無性に好き
積極性が出始めた
この子に未来がありそうだ
秋となり
英語弁論大会の
招待状が続々届く
「おまえ、一つやってみな」
本人にこっと頷いた

和洋女子大学長杯
「朝鮮語・日本語・英語を学ぶ」
放課後にはスピーチの
練習練習、また練習
七分間のスピーチを
一日三十回以上!
東大・早稲田・津田塾・明治
上智・慶大・青山、その他
見えぬライバル追いかけて
追い越せ、それも差をつけよ

朝は四時からグラウンドで
発声練習、また練習
静叔(しじま)は破れ霧は去る
汗みどろ集中する彼の
内向的な細声は
外向的な太声に
何処へも届く弁論調
ついに最後の一週間
ハートの出し方、プロローグ(すべり出し)
クライマックス(熱い部分)エピローグ(終結)
発音、抑揚、デリバリー(説き方)
すべての準備整った

弁論大会その日が来た
余裕を持った表情の
声なめらかな役者振り
「レディス・アンド・ジェントルマン」
やおら頬は紅潮し
ここぞとばかり訴える
民族教育優越性
静かに「サンキュー・ベリマッチ」
嵐の拍手受けながら
彼は優勝トロフィーを
高く高くかかげてた

学習意欲さらに燃え
全関東学生英語弁論大会
「在日朝鮮人への警鐘」
単一民族VS多民族
帰化問題を分析し
民族の血の重要性
唱えまたまた優勝す

年経つごとに彼の眼は
輝き放ちインテリの
鋭さ顕著に現れた
朝鮮新報社」記者として
国際面で活躍後
学問の道歩み出す

あのもさっとした風貌は
跡形もなしロンドンの
西北西八十キロ
八百年の歴史持つ
オックスフォード大学院
トップ卒業果たしたが
至難の峠うち登り
博士コースに入学す

博士となりて帰る日よ
商工会副会長の父はあの世の人なれど
母の心はいかばかり
民族教育正当性
噛みしめるに違いない
ああ、愛弟子よ、リ・チョルホ
祖国統一するために
早く帰れよリ・チョルホ


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リ・チョルホ 仮名です。グラスゴー大学で教授になり、現在は日本の大学で教授をしています。彼の優勝スピーチの原稿はキム先生の著作である「英語スピーチのハイテクと実際」(桐原書店刊・廃刊)に日本語・ハングル訳付きで収録されている。
寄宿舎 朝鮮大学校は全寮制。全ての学生がキャンパス内の寄宿舎で共同生活している。
朝鮮新報社 朝鮮総連の機関紙を出版している会社。