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キム・ハノ詩集 10 在日の詩
「セッカと教師」
語彙解説
多摩川
河原に月見草咲くころは
セッカが鳴くよヒーヒーヒー
武蔵野
マシコは林にヒーヒーヒー
多摩川の
セッカは空にヒーヒーヒー
ヒーヒーヒーのトーンが違う
マシコは冬の林鳥
セッカは春夏(しゅんか)河原鳥

ヒバリはまっすぐ上がり鳥
セッカはよこに上がり鳥
下りるときはチャッチャッチャッ
ウグイス笹鳴き似て非の声
セッカの巣を
私は探した一日中

セッカは上がるゆっくり上がる
セッカは下る急いで下る
下りれば季節巣造り頃
母鳥隠れ隠れして
汗をびっしょり濡れつばさ
私はがまんがまんがまん
八時間待つ夕まぐれ
ねぐらの卵暖めに
さすがのセッカ下りて来た

か細く小さなかや草を
丸め袋状の巣に
三つ卵抱いていた
あゝ心なき私は
ついに卵を見てしまった
次の朝
そぼ降る小雨傘さして
私はふたたび見に行った
卵は三つそのままだ
さわってみると冷えたまま
セッカの姿は消えていた
なん日経っても戻らない
私は私は
セッカの子を殺してしまった

私はセッカにしたように
人の心を殺していないか?
知らぬうちに殺していないか?
教師たるもの
生徒の心を殺していないか?
可愛い生徒と思いながら
知らぬうちに殺していないか?
あゝ生徒よ、私は
罪人になってしまったのか……



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セッカ ウグイス科。大きさはウグイスより小さく、茶羽があります。巣を探すのは難しいそうです。
多摩川 現在の東京都下(多摩地区)を縦断している川。
キム先生はこの流域で生まれました。
武蔵野 東京都と埼玉県西部にわたって広がる洪積台地。一般的には、関東平野南西部の武蔵野台地を指し、北東は荒川、北西はその支流の入間川、南は多摩川によって区切られています。
マシコ フィンチ類、アトリ科に属する鳥の種類の総称。北海道に生息する、オスが美しい赤色をしているギンザンマシコが有名ですが、ここでは具体的にどの鳥を指しているのかは不明です。